「富士山」

ロシアからの帰国時、それまでの荒涼としたシベリア上空から暫くすると雲の更に上に霊峰「富士山」がその雄姿を見せていた。日本人にとってやはりこの山は特別な山なのだ。都内にいると流石にいつも目にするということはないが、私が少年時代を過ごした横浜の実家は高台にあるので、その頂点から観ると富士山が見えた。だが今では周囲に住宅が立ち並びとてもではないが富士山を観る事が出来ない。小学生の頃、朝息が凍るほどの寒さの中、ランドセルを背負って学校に向かう時、白く輝く富士山を観ることで本当に神聖な気持ちになったことを覚えている。何気ない風景なのだが、今も忘れられない。横浜は港町だから、遠く汽笛が聞こえることも度々あった。大桟橋まで行けば大きな客船が繋がれていた。きっとあの船に乗ってきた外国の人々も日本へ到着する直前、一番最初に目にしたのが多分富士山だったのだろう。同じような経験は私はギリシャのアテネだった。それはクルーズでアテネに戻る時、まず最初に目に入ったのが、白く輝く「アクロポリス」の壮麗な建物だった。アテネの丘の上に聳えるアクロポリスは船乗りのランドマークだったのだ。当然それは富士山にも言えよう。今も昔も船も空も陸でも富士山は日本のランドマークなのだ。

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