「本のお話し」
「F・ベアトの幕末」(山川出版社)という本が手元にある。外国人戦場カメラマンが1863年に来日し、写真を撮った。幕末の日本人を撮った写真が数多くある。勿論著作権の問題があるのでお見せ出来ないが、表紙は所謂「御高祖頭巾」を被った武家の奥方だろうか?まるでイスラムの女性のような風景だ。手には傘を持っている。(写真:御高祖頭巾の女性)
江戸だけでなく、日本各地を旅して人びとと風景を写真に収めている。幾つか言葉でご紹介しよう。生麦事件の現場の写真がある。文久2年(1862)8月21日に起きた事件で、薩摩の島津久光の行列400人の前に騎馬のイギリス人4人が行き会い、その中でリチャードソンが殺害されたのだが、その現場の写真と言っても、道の片側に茶店が一軒あり、反対側に農家があるだけで、あとは一面の畑と林で何にもないのだ。道幅は3間ほど、6m位、これが東海道なのかと目を疑いたくなるが、本当に何にもない場所なのだ。
もう一つ、愛宕山の上から江戸市中を撮ったもの。山の下の平野には正に甍を連ねるが如く、瓦屋根が連なっている。大半が武家屋敷なのか、周囲を長屋で囲まれた塀が長屋になっている様式、所謂長屋門の屋敷が続く。遠く微かに江戸城が一際目立つだけ。江戸城は日比谷付近の丘の上にあるから、愛宕山からも見えたのだ。これらの連なる甍(いらか)は大都市江戸の様子を如実に示している。流石100万人都市だ。
明治初期と思われる「刑場」の写真もある。当時「磔(はりつけ)刑」がまだあった。そして「曝し首」が幾つか曝されていた。これは流石に気味が悪い。でもこんなのは別として当時の日本人の生活も含めてよく示している写真集なのだ。戦場カメラマンだから長州を攻めた「四国艦隊」にも従軍した写真もあった。面白い飽きない写真集でした。