「続く偽装問題と杭」

「続く偽装問題と杭」
VWのディーゼルエンジンの排気ガスの偽装に続いて、TYゴムの3度目の偽装発覚で驚いていたら、今度はAK社の杭の問題が発覚した。とても他山の石とは思えない。実は私は1997年東証一部上場のDコンクリート工業が倒産した後に立て直しのために総合商社M社から出向した。その後D社に転籍し、取締役営業本部長として営業面を指揮し無事会社更生法から普通の会社に戻すことが出来た。そのD社がAK建材と同業の杭の製造メーカーであり、工事会社でもあったのだ。だからこの杭の偽装問題は正に経験してきたことに重なるのだった。D社は戦前に日本で最初に鉄筋とコンクリートを合わせて回転式遠心分離方法で杭を作ったメーカーだった。
「杭の種類と工法」
杭の種類は大まかに2つに分けられる。ちょっと専門的になるが説明しよう。一つ目は「既製杭」と呼ばれるもので、今回の事件の杭も既製杭である。これは工場で製造された直径1m前後のもので完成後現場で地下に埋設される。その中には「コンクリート杭」、「鋼管杭」、「鉄とコンクリートの複合杭(SC杭)」とあるが、何れも工場で製造・管理された商品である。コンクリート杭は鉄線を網状にしたものを筒状にして円形のケース(型枠)に入れ、コンクリートを詰め、これを回転させて中空状態にして乾燥させたものだ。一方、鋼管杭は鉄の板を円形の筒状に丸めたもの、SC杭は鋼管杭の内側にコンクリートの壁を設けて強度を増したものだ。
「施工方法」だが、戦前も戦後も既製杭は「打撃工法」、所謂杭頭をハンマーで打って埋め込むという工事方法だった。これだとどこに支持基盤があってもその岩盤まで到達すれば、それ以上打ち込めないので必ず支持基盤(層)に到達が確認出来た。だが騒音と振動の問題で今はこの方式での杭打ちは殆ど行われていない。昔は滑車に錘を付け、それを周囲の人たちが綱を曳き、錘を杭の先端(杭頭)に落とし打ち込む。「とうさんのためなら、えんやこら」の歌で歌われた工法だ。その代わりに「セメントミルク工法」という今回の事件の問題となった工法が使われるようになった。機械で穴を掘り、そこにセメントミルクを注入しコンクリート杭を挿入するという工法だ。全ての管理は機械が行う。だから今度は管理者の管理能力が問題となる。昔のような打撃工法ならばこういった問題は起きない。所謂アナログ方式(打撃)のほうが確実なのだ。これは日本の建設業界の問題点、即ち重層的下請け構造が問題なのだ。まずここでいうと、親会社のAK社が杭の製造を行い、それを子会社のAK建材がゼネコンから杭工事を受注し施工するのだが、AK建材は杭の設計と現場の施工管理を行うのであって、実際の施工は重機(今回の場合は三点式杭打ち機)を保有している下請け工事業者が機械のオペレーターや手元を送り込む。この人たちは正に3Kの象徴のような仕事をしているのだ。ある意味最下層のグループに属している人たちなのだ。だから高いモラルを期待するのは無理だろう。本当は元請のゼネコンが管理すべきことを下請けにやらせているのだから、こういった問題が起こっても当たり前だと思っている。或いはAK建材が徹底した社員教育を行い、現場管理を厳しく行っても起こる時は起こる。それすら業界の通念としてやっていないし、AK建材にしても下請け業者に依存する度合いは強いだろう。業界トップクラスのAK建材にしてもしかり、他社は押して知るべきだろう。私がいたD社はその後同業と合併してJP社となっている。業界トップ乃至第2位の会社だから多分大丈夫だとは思うのだが、それでも不安である。(写真:完成真近かの豊洲新市場の建設現場)

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二つ目は「現場造成杭(通称、場所打ち杭)」だ。既製杭では中層程度の高さの建築物までしか支持力が持たない。それより重たいもの、即ち高層建築物では既製杭は支えきれないので、現場で大きな穴(直径数m)を岩盤まで掘り下げ、そこに鉄筋で組んだ円形のものを入れ、それにコンクリートを注入して固めるという方式だ。だから高層や超高層のビルやマンションにはこの現場造成杭が使われる。先日テレビで別のM不動産が豊洲に建てたマンションの住民に不安を聞いていたが、これは全く間違った話しで、杭の種類が今回の事件とは違うということを認識してもらいたい。
今回のAK建材の偽装事件は、AK建材の施工管理者(実は自社社員での施工管理というのは非常に少ない。社員不足で実際には下請けの社員を一時的に逆出向させて自社社員として現場に登録するほうが圧倒的に多い)が行った偽装だが、「何故?」という疑問にぶち当たる。多分現場は寒かったり暑かったり体調が悪かったりするので、仕事を早目に切り上げたくて行ったのではないか、所謂「さぼり」ということだと思う。モラルの低さの現われだろう。そして言いたいのは「日本の建設現場では性善説は通用しない」ということだ。性悪説に立って管理しなければならないのに実際の現場は性善説で運用されているということだ。杭の施工管理もITが進んだ現在、データは現場事務所内でも現場施工管理者以外の人が再度チェック出来る体制にしておくべきだったということだ。受注競争のツケが安値受注、更に下請けへの安値発注となることは施主としても覚悟しておくべきだろう。
ちょっと長くなったが、同じ業界に席を置いた者として本件は残念な出来事だったと思っている。