「手前勝手世界食物語、第203話」

「美国屋の鰻」
日本橋高島屋の横に「美国屋」という小さな鰻屋がある。みずほ銀行の裏といったほうがよいのだろうか。この鰻屋、本当に小さい。間口1間ほどで奥行きも数間で客室は3階まである。鰻屋は鰻の寝床といった感がある。品書きには「鰻重」が3種類しかない。違いは鰻の量によるらしいので一番安い2000円の鰻重を頼んだ。まあそこそこの味だった。勘定をする段になって請求書というかそんなものを観たら一番上に「り ○」、次に「り 丁」、最後に「川 り」と書かれていて私のには一番上の「り ○」のところに一本線が入っていた。店の人に聞いたらやはり「符調」のようで○が一番安い鰻重、丁は二番目、川は三番目だという。丁は二、川は三は分かるが、○がどうして一になるのかがよく分からなかった。これから夏にかけて鰻は庶民の人気料理になる。蒸し暑い日本の夏を乗り切るには鰻でスタミナを付けよう。最近行っていないが、南千住の「尾花」が庶民には頼もしい店だ。安くて美味くてと二拍子揃っている。早くはない。注文を請けてから捌くから鰻が出てくるまで30分は掛かるからだ。勿論天然物もある。但し天然鰻一匹丸ごとは、最低でも一万円はするので覚悟が必要だが。夕方は早く行かないと品切れで食べられないこともあるからご用心。有名高級鰻店は都内にも沢山あるが、それなりの値段を出せば食べられる鰻だが、やはり安いことに越したことはないし、更に美味ければもう絶対だ。鰻も泥鰌も江戸時代から庶民のタンパク源だった訳だから、日本人に染み付いた味なのだろう。中華料理の鰻と言うと、ぶつ切りにした鰻を煮込んだものだったが、あれは大味でいけない。日本でも鰻は東京と大阪では裁き方も焼き方も違うが、私は東京式の蒸して焼いたものが好きだ。
「北京ダック」
最近テレビで観たのだが、北京の町にある庶民向けの北京ダック専門店で出されていたものは、釜に吊るしたダックを桃の木の火と煙で焼き上げ、それをスライスするのだが、皮に充分な身をつけて切られていた。従来「北京式」は皮を薄く切り出し殆ど身が付いていないとされていた。反対に「広東式」は身を沢山付けているとされていたが、今回のテレビでやはり北京でも広東式のほうが美味いということは皆が分かっていたということだ。有名な「全聚徳」は皮だけで身は薄くする方式で、小麦粉の皮に挟むのは「白髪葱」のみ、だがテレビではこれに「キュウリの細切り」が付いていたが、やはり身を厚くして白髪葱とキュウリを合わせて「甘味噌」で食べるというのが良い。何もダックの皮だけ食べて残りの身を「まかない料理」として料理人たちに食べさせることはなかろう。
以上、梅雨真っ最中の東京から勢古口がお送りしました。

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